大判例

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福岡高等裁判所 昭和62年(ネ)619号 判決

一 当裁判所も、本件登録意匠と被控訴人製品の意匠とは類似せず、被控訴人製品の意匠が本件登録意匠を利用する関係にもないと判断し、控訴人の被控訴人ら対する本訴請求は、失当として棄却すべきものと判断するもので、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1 原判決一六枚目表一二行目の「小巴も」を「小巴上部の形状も桟部の形状をそのまま延長した」と改める。

2 同一七枚目表八行目の「登録一覧表」の次に「No.1ないしNo.15」を加える。

3 同一二行目の「(原告は」から同裏五行目末尾までを削る。

4 同一八枚目表二行目から一二行目までを「以上認定した事実及び前記争いのない事実によると、軒かわらに上部の形状が桟部の形状をそのまま延長した形状の小巴を取り付けることは、A意匠の出願前より各形状のかわらにおいて一般的に行われており、周知といえるから、平S形軒かわらに右形状の小巴を取り付けることは極めてありふれた構成と考えられる。そして、A意匠を表したものであることが当事者間に争いのない原判決別紙(一)によれば、A意匠の小巴においても桟部の形状をそのまま延長した結果上部の形状が富士形を呈したにすぎないと認められるから、A意匠の小巴は、これをもつてA意匠に新規性や創作性があるとはいえず、したがつて、看者の注意を引く部分とは認められない。これに対し、平S形かわらは、表面裏面に模様を付けたものが広く知られているところ、A意匠は表面裏面とも釘孔以外の模様も立体模様もない点で公知意匠には見られない斬新な特徴が存するものと認められ、これに、A意匠におけるかわらの表面裏面の占める面積の大きさ及び通常の使用状態においてはかわらの表面が最も看者に注目される部分であることをも考慮すると、被控訴人ら主張のように表面裏面とも釘孔以外の模様も立体模様もない点をA意匠の要部とみるべきである。したがつて、A意匠の要部は無模様の点ではなく平S形かわらに小巴を取り付けた点にあるとの控訴人の主張は採用できない。」と改める。

5 同一八枚目裏七行目の「成立に争いのない」から一一行目の「乙第三四号証」までを「前掲乙第一一号証、第三三、第三四号証、第四〇ないし第四三号証、第五六号証、成立に争いのない乙第四号証、第四八号証の三、四、原審証人秋本正実の証言により真正に成立したものと認める乙第九、第一〇号証」と改める。

6 同一九枚目裏末行の「前記二」を「前記三」と改める。

7 同二〇枚目表四行目から同裏二行目までを「以上認定した事実及び前記争いのない事実によると、袖かわらに覆板を取り付けることは、袖かわらの用途、機能に伴う必然的な形状であつて、B意匠及びC意匠の出願前より各形状の袖かわらにおいて周知であるから、平S形袖かわらに覆板を取り付けたことは極めてありふれた構成と考えられる。そして、B意匠及びC意匠を表したものであることが当事者間に争いのない原判決別紙(二)、(三)によれば、B意匠及びC意匠の覆板は、いずれも前記坂本格次郎の考案した継目冠蓋の形状のうち、切り欠き部分の形状が坂本のものはマイナスの弧状であるのに対し直線である点に相違点があるのみで、その差異は見た目は僅少であると認められるから、覆板をもつてB意匠及びC意匠に新規性、創作性があるとはいえず、したがつて、B意匠及びC意匠の覆板が看者の注意を引くとは認められない。これに対し、平S形かわらは、表面裏面に模様を付けたものが広く知られているところ、B意匠及びC意匠は表面裏面とも釘孔以外の模様も立体模様もない点で公知意匠には見られない斬新な特徴が存するものと認められ、これに、B意匠及びC意匠におけるかわらの表面裏面の占める面積の大きさ及び通常の使用状態においてはかわらの表面が最も看者に注目される部分であることをも考慮すると、被控訴人ら主張のように表面裏面とも釘孔以外の模様も立体模様もない点をB意匠及びC意匠の要部とみるべきである。したがつて、B意匠及びC意匠の要部は無模様の点ではなく平S形かわらに覆板を取り付けた点にあるとの控訴人の主張は採用できない。」と改める。

8 同二〇枚目裏四行目の「成立に争いがない」を「前掲」と改め、五行目の「前掲」を削る。

9 同二三枚目表九行目の「覆形」を「覆板」と改める。

10 同二八枚目表八行目の「(入山実の証人調書)」のつぎに「甲第五五号証(松尾憲一郎作成の意見書)、第五六号証(入山実及び新垣盛克作成の補足見解書)、第五八号証(牛木理一作成の鑑定書)第六〇号証(同人作成の砂川鑑定に対する見解書)、第六一号証(同人作成の続・被控訴人提出の砂川鑑定に対する見解書)、第六二号証(同人作成の砂川氏提出反論書(乙第七一号証)に対する再見解書)、及び当審証人牛木理一の証言」を加える。

11 また、控訴人は、昭和三二年ころから表面裏面とも無模様の平S形かわらが製造販売されており、京都郡刈田町においては、そのころ葺かれた表面裏面とも無模様の平S形かわらが現存しているので、本件登録意匠が表面裏面とも無模様である点を本件登録出願当時公知意匠にはない斬新なものとするのは誤りである旨の主張をするところ、当審における検証の結果及び当審証人宮田恵美子の証言によれば、福岡県京都郡刈田町において表面裏面とも無模様の平S形かわらを使用した建物が現存すること、右かわらは昭和三二年ころ葺かれたものであることが認められる。しかし、仮に、特許庁において、表面裏面とも無模様の平S形かわらが本件登録出願前公然使用されていることを探知していたとすれば、本件登録意匠はいずれも登録を拒絶されていたとはいえても、右事実をもつて、本件登録意匠の要部が表面裏面とも無模様の点にあるとの前記判断に影響を及ぼすものとは解されない。したがつて、控訴人の右主張は採用できない。

12 その他、当審で取り調べた証拠によつても、前記認定判断を左右するに足りない。

二 よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却する。

〔編注1〕本件における控訴理由は左のとおりである。

一 控訴人は、1原判決を取り消す。2被控訴人らは控訴人に対し、不当利得金として各金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払えとの判決並びに2、3項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文と同旨の判決を求めた。

二 当事者双方の主張の関係は、次のとおり付加する(中略)。

(控訴人)

1 類似関係

(一) 本件各登録意匠は、いずれも物品であるかわらの形状にかかる意匠であり、その意匠の要部は、(1)軒かわらにおいては、平S形軒かわらに富士形と矩形とを組み合わせて整形された変形六角形の小巴を取り付けた部分にあり、(2)左、右袖かわらにおいては、平S形袖かわらに整形された変形六角形の覆板(ソケツト)を取り付けた部分にあるのであつて、これらの新規形状意匠のかわらは、平S形かわらの屋根瓦の葺上美の単純さをカバーし、右意匠かわらが屋根に葺き上げられることにより、建物屋根全体に整然とした幾何学的美観をもたらすものである。

(二) 軒かわらの小巴については、軒かわらに必須の構成部分ではないが、昔から各種軒かわらに付加されて、円形、方形等の各種の形状により、あるいは家紋や花卉等の模様を付加した形状により、雨水等の逆流防止作用や建物所有者の権威表徴作用などをもたらしていたが、それと同時にその小巴の形状により軒かわら自体の形状美をももたらしていたものであり、小巴の形状を変えて、かわらの形状の変化に従つて、各種かわらの基本形状にふさわしいものを付加することにより新しい形状の軒かわらを創作することが行われてきたのである。

すなわち、平S形かわらは、昭和三〇年以前から、厚型スレートとして製造されるようになり、昭和三二年S形として日本工業規格に指定され、更に昭和五六年に平S形と改称されて今日に至つているのであるが、その軒かわらは、当初、小巴を付加しない形状にて製造、販売されていたものであるところ、控訴人が、この平S形かわらの軒かわらに、その平S形軒かわらの本体の形状にふさわしい前記形状の整形された変形六角形の小巴を付加することにより新型の平S形軒かわらとし、昭和四〇年一一月一五日に至り、本件意匠登録の出願をし、これにより本件各意匠登録がなされたのである。

(三) なお、原判決は、本件軒かわらの登録意匠の要部が無模様にあるとする理由として、「平S形かわらは、表面裏面に模様を付けたものが広く知られているところ、(本件軒かわら)意匠は表面裏面とも釘穴以外の模様も立体模様もない点で公知意匠には見られない斬新な特徴が存する」としているが、平S形かわらについては、昭和三二年ころから表面裏面とも無模様のものが製造販売されており、北九州市周辺の京都郡刈田町においては、そのころ葺かれた表面裏面とも無模様の平S形かわらが現存しているのであり、原判決の述べているところは独断に基づくものである。

2 利用関係

(一) 本件A意匠がかわらの形状の意匠であることが明らかである以上、これと同一形状もしくはこれに類似のかわらを利用して、この表面に模様(裏面に雀返しという突起形)を付加したかわらとして登録されたイ号意匠は、その出願前の出願にかかるA意匠と、意匠法二六条規定の利用関係にある典型的な場合である。

すなわち、登録されたA意匠は、意匠法に基づく願書及び添付書面に表現された観念であり、これが工業上の物品に利用できるというものであるから、A意匠が新規性、創作性が認められて登録された以上、実際に登録権者がA意匠のかわらを、そのとおりの内容で実施するかどうかは自由であり、またA意匠のかわらの形状に自ら種々の模様や色彩を表現し、A意匠のかわらの形状と各種の模様や色彩とが結合した各種のかわらを製造販売することは、他の意匠権と抵触しない限りにおいて自由なのである。

これに対し、他者が、この登録されたA意匠の形状のかわらの表面に模様や色彩を表した形状のかわらを製造販売すると控訴人の権利となつているA意匠を利用したことになるのである。

(二) B意匠とロ号意匠、C意匠とハ号意匠は、B意匠、C意匠が登録意匠であるのに対し、被控訴人が製造販売をしているかわらのロ号意匠、ハ号意匠は登録出願が拒絶されたものであり、登録されていないものであるが、その相互の事実関係はA意匠とイ号意匠の場合と全く同一であり、当然、ロ号意匠、ハ号意匠の実施は、B意匠、C意匠の内容を包含しこれを利用しているのであるから、意匠法二六条と同趣旨の制限があるべきである。

(被控訴人)

1 類似関係について

控訴人は、平S形セメント瓦にそれぞれ六角形の小巴と覆板(ソケツト)を付けた点に新規性、創作性があり、それは看者に視覚を通じて美感を起こさせると主張する。

しかし、まず、平S形の基本形状を日本工業規格「厚形スレート」(乙第一一号証六、七頁)の例図によつて、他の三つの形と比較した特徴を指摘すると、平S形は断面図において「谷」の部分が真つ平らで、「桟」の部分の盛り上がりも直線的で、どこを見ても丸みを帯びたふくらみがないという特徴を持つている。そして、この基本形状と寸法は総て規格化されていて変更の余地のないものであり、これに、控訴人のいう小巴や覆板を付加したからといつて、右断面図に見るような基本形状には何の変わりもない。

次に、小巴や覆板(ソケツト)自体に何らかの新規性や創作性があるかというと、これまた昔から公知公用のものであつて、全くといつてよいほど新規性も創作性もない。

このように、本件意匠の要部を右の小巴や覆板(ソケツト)に求めるとすると、控訴人の思考を反映させる余地のない規格化された平S形に、坂本格次郎の実用新案の完全な模倣にすぎない継目冠蓋と称される覆板(ソケツト)を付けた袖かわらか、平S形の「桟」の部分の構造上当然そうならざるを得ない将棋の駒形の小巴を付けた軒かわらにすぎないものであつて、単にその人が作るか作らないだけの違いしかないところの、一般人の常識として誰でもが容易に考えつく程度の極くありふれた意匠でしかない。

2 利用関係について

控訴人は、被控訴人の意匠は本件意匠の形状に模様を付けただけにすぎないもので、意匠法上典型的な利用関係にあると主張するが、その論旨は、結局のところ、本件意匠の要部を小巴と覆板(ソケツト)に求め、それらの付加された形状と被控訴人意匠が同じ形状をしているというにすぎない。

しかし、双方意匠の要部の違いはかわら表面の模様の有無にあつて、形状は何の関係もないのであるから、そもそも類似しておらず、被控訴人意匠を実施しても何ら控訴人の本件意匠を実施したことにはならないので、利用関係については問題にはならない。

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